2009年10月29日木曜日

紛争の三次元化

家族経営でほそぼそと商売を営んでいた一家のこと。
父親は資金繰りに追われる毎日。
いずれ「2代目を」と考える長男は、父親の保証人を買って出た。

数年後、商売は行き詰まる。破産手続のため、彼は裁判官との面接(「審尋」という)に呼び出されていた。
若い裁判官は彼に対し、「払えない金額を何で保証なんかしたのか?」と罵倒した。

実話である。
みなさんはどう感じるだろうか?

経営者にとって、事業は「命」そのものだ。。
日々、命をかけて資金をつなぐ父親を目の当たりにし、共に生計の糧を産み出していた彼には、「保証を断る」という選択肢は想像すらできなかったのではなかろうか?
これが、零細事業の現場なのだ。

「勉強ばかりで世間知らず・・・」
裁判官への批判の言葉としてしばしば取り上げられてきた。残念ながら、一部にはまったく的外れな指摘でないように感じる。
批判の対象となった裁判官にとって、生の紛争は、机上の二次元の世界に押し込められたままだったのか?

「紛争を裁いて解決する」 「紛争を解決に誘(いざな)う」
手法は違えど、紛争当事者の真ん中に立つのは、裁判もADRも同じことだ。

生の紛争には、紛争に関わる人間がいる。その人間が過ごす日常がある。その日常を取り巻く社会環境がある。
当事者が語る言葉から、バーチャルな社会を構築し、当事者の日常を想像し、そこに過ごす人間に思いを巡らすと、机上の紛争は三次元へと昇華し、当事者の言葉に響きが増す。

やはり、私たちのADRも、「勉強ばかり・・・」 では社会に受け入れられないのだ。

運営委員 中里 功

2009年10月28日水曜日

「合意」第1号誕生!!

先日、“ふらっと”での話し合いの場で、

当事者による「合意」が生まれました。


内容はくわしくお伝えできませんが、

“ふらっと”の調停人が話し合いのサポートをして、

当事者双方が紛争と真剣に向き合うことにより、

“ふらっと”初の「合意」が誕生しました。


おしきせではなく、当事者が自分の力で「合意」

されたことに非常に意味があると思っています。


そもそも、我々市民社会では、

私法上の法律関係については、

個人が自由意思に基づき自律的に形成することができる

とされています。

(私的自治の原則と呼ばれています。)


私は、常々、紛争解決の場でも、

個人が「自分の力」で納得のいく解決をすることが理想

であると思っています。


今回の「合意」も、当事者の自由な意思に基づき、

紛争と向き合い、それを“ふらっと”の調停人が支えること

により誕生しました。


こうした私的自治の貫徹を

これからも大切にしていきたいと思います。


今後も、市民の皆さんの紛争解決手段の一つとして

お役に立てればと思います。


お気軽にご相談ください!

054-282-8741(ハナシ・アイ)


副センター長 名波 直紀

2009年10月22日木曜日

開かれた質問 閉ざされた質問

こんにちは、運営委員の井上史人です。
今回も前回と同様、研修で体験したことを書いてみます。

以前、ADRに関する研修を受講した際、二人一組となって、相手方の情報をどのように聞き出すかという作業を行いました。
この時、2回に分けて、次のような方法で、相手方に質問をします。

一つは、「開かれた質問」と呼ばれる方法で、単純に、「はい、いいえ」、あるいは一言では、答えられない質問です。
例えば、「昨日は何をしていましたか?」という質問をされれば、相手方は、「はい、いいえ」で答えることはできず、ある程度詳細に、「昨日何をしていたか」を答えなければいけませんね。相手の回答次第で、その次の話題につなげやすく会話の内容も広がります。

もう一つは、「閉ざされた質問」と呼ばれる方法で、「はい、いいえ」、あるいは一言で答えられる質問です。
例えば、「昨日、家に居ましたか?」という質問です。このような質問は、「はい、居ました。」というような回答で終わっていまいます。話し好きの人ならば、家で何をしていたかを自ら話し出す人もいるでしょうけど、無口な傾向な人ならば、「はい、居ました」という回答で終わってしまい、会話が広がらないかもしれません。

研修では、開かれた質問のみによるパターンと、閉ざされた質問のみによるパターンでそれぞれ質問を行い、相手方が昨日何をしていたかを探り出す作業を行いました。
開かれた質問による方法では、相手方が自ら詳しい内容を話してくれるので、相手方が「昨日何をしていたか」がよく判ります。

しかし、閉ざされた質問による方法では、「はい、いいえ」の回答しか返ってきません。そのため、こちらが推測して、何回も質問を繰り返すことになりますが、それでも、限られた内容しか聞き出すことができません。

日常会話では、無意識のうちに開かれた質問と閉ざされた質問を使い分けながら、コミュニケーションをとっていると思いますが、会話が上手く進まないと感じる場合は、意識してこの二つの質問を使い分けてみると、会話が上手く進むかもしれませんね。

2009年10月15日木曜日

ふらっとホットライン

こんにちは、運営委員の花田です。

今回は、10月3日(土)に実施された無料相談会「ふらっとホットライン」の様子をお伝えします。




当日は、10:00から15:00まで延べ9名の相談員が、面談・電話の相談に対応しました。相談件数は面談3件、電話3件となりました。
  
 

まだまだ、ふらっと・ADR・メディエーションという手法が浸透していませんので、相談件数は決して多くはありませんでしたが、逆に1件1件の相談にじっくり耳を傾けることが出来たかと思っています。





 また、相談の中にはADRに馴染まないと思われる案件もありましたが、当日対応したメンバーは、一般の相談窓口である「総合相談センターしずおか」の相談員でもありますので、内容に沿ったアドバイスがなされていたようです。


 「ふらっと」の活動は、まだ始まったばかりですので、これから1件ずつ実績を積みあげ、多くの市民にその存在を知ってもらうことが当面の課題ですね・・・


← ・・・相談電話に真剣に対応する増田委員です・・・





なお、「ふらっと」では随時相談受付を行っていますので、054-282-8741《ハナシアイ》まで、お気軽に電話してみてください。



← ・・・当日の仕切りを務めた副センター長の名波さんです。・・・お疲れ様でした・・・

2009年10月8日木曜日

一歩踏み出す

こんにちは、運営委員の登山です。

今回は、私がまだ、司法書士の受験予備校に通っていた頃、駅前で英会話教室のチラシ配りのアルバイトをしていたときのことを書かせていただこうと思います。
チラシ配りと聞いて、「あ~、あの迷惑なあれね?」と思われる方、ごめんなさい。
配り手が配っているものは単なる宣伝のチラシですから、迷惑に思われる気持ちはよく分かります。
そんなチラシ配りを、私はほぼ毎朝、予備校に行く前に2時間程度やっていました。

私がチラシ配りをする時に心がけたのは、「もらってくれなくて当然、もらってくれたら感謝」と思って配ることと、恥を捨てて兎に角元気に声をかけること、の2点でした。
同じ時間帯に同じ場所で配っていたので、通勤や通学のため電車を利用する方々とお互い顔見知りになるのですが、これらの方々の対応は様々です。
笑顔を返してくれて、なおかつ、いつもチラシをもらってくれる方。「ごめんね~」と言いながら通り過ぎて行く方。無言でいつもチラシをもらってくれる方。無関心で通り過ぎて行く方。わざわざ大回りして避けて行く方。「I can speak English.」と言って通り過ぎて行く方。挨拶してくれる方。チラシに何か(ポケットティッシュなど)付いているともらってくれる方。すぐに仲良くなる方、時間がかかって仲良くなる方。いつも同じ反応をしてくれる方。毎回違った反応をしてくれる方。
本当に、十人十色でした。
私は、駅前で、お互い名前も知らない者同士なのに、コミュニケーションが成立しているということに対して、日常にはない楽しさを感じました。また、このときの経験が元で、現在、何の苦もなく人と接することができるのだと思っています。

さて、紛争の場においても、同じことが言えると思います。
親しい間柄で紛争になることもありますが、上述したような、毎日のように顔を合わせるけれど、親しい間柄ではないような相手と紛争になることも多いのではないでしょうか?

こんなとき、意を決し、相手と腹を割って話してみるのか、それとも無関心でいるのか。

正解はないと思いますが、私は、相手と腹を割って話してみる方が、得をすると感じています。
相手がどんな対応をされる方か、実際に接してみないと分かりません。また、状況によって対応も変わってくるでしょう。
ですが、何より、仮に相手がどんな対応をされる方であっても、それが自分自身にとって良い経験になるから、というのが最大の理由です。

私達、調停センターふらっとは、紛争の相手と腹を割って話してみたい、だけど、なかなかその一歩が踏み出せない、そんな方が、その一歩を踏み出すための、お手伝いをさせていただくところだと思っています。