2018年6月13日水曜日

思えば対話をしてこなかった

 私は、大学でも野球をした。高校生ならいざ知らず、大学生ともなれば、プロ野球のように相手チームや審判と対話をしながら試合を楽しんでもよさそうなものである。しかし、高校野球の経験、いや少年野球のそれがわざわいしてか、彼らと対話を楽しむことはなかった。今の私なら、もっと野球を楽しむことができただろうに。垂れた胸と突き出た腹を眺めながらつくづくそう思う。

 読者の皆さんは適格消費者団体をご存じだろうか。所管庁の言葉を借りれば「不特定かつ多数の消費者の利益を擁護するために差止請求権を行使する(中略)適格性を有すると内閣総理大臣の認定を受けた法人」のことである。
この6月、静岡にこの適格消費者団体を目指すNPO法人が設立された。消費者はもちろん、学者、弁護士、司法書士、消費生活相談員など、様々なバックグランドを有する者が会員となり、事業者による不当な勧誘、不当な契約条項、不当な広告表示などについて、その是正を求める活動を行っていくことになる。
さて、この適格消費者団体、事業者に対し、その不当勧誘等の差止請求訴訟をすることから、まるで水戸黄門のような、問答無用の存在に思えるかもしれない。もちろん、そのような結果に見えるケースもあろう。しかし、実際には、事業者との対話を重要視している、あるいは重要視せざるを得ない。強権に近い力を与えられた者の自制、ということもできようか。

 つい先日、消費者契約法の改正法が成立した。いわゆるデート商法対策など、新たな不当勧誘行為・契約取消規定が追加された。成年年齢の引下げが現実味を増す中、若年者の契約トラブルへの対策の一つとして、この改正法が威力を発揮することを願ってやまない。
 ところで、法改正がなされる際、決まってパブリックコメントが行われる。つまり、為政者が考えている立法の方向性について、大衆から意見を募るのである。上述の消費者契約法の改正についても、昨年、パブリックコメントが行われた。このパブリックコメント、その制度趣旨を考慮すれば、いかにも為政者と大衆との間の対話のように思えてならない。しかし、本当にそうであろうか。
 実は、昨年実施された消費者契約法改正に関するパブリックコメント、なぜか賛否の数が公表されていないので定かではないが、おそらく改正に反対する意見の方が大多数だったと思われる。それにもかかわらず、今国会に提出されたのは、ほぼ為政者が考えたとおりの法案だったのである。

 問答無用のように見えて実は対話を重んじかつ実践する、対話をするかのように見えて実は相手の意見を聞くつもりがない。人生経験の浅いうちは、この妙味に気づかないかもしれない。いろいろな駆け引きの経験を通じて、この妙味を味わうことができるようになるのだろう。

 そういえば、高校3年生の今頃、ノーアウト2,3塁でバッターボックスに入り、直球で追い込まれた後、静学のキャッチャーが「次、カーブ行くぜ。」とささやいたことを思い出した。今の私なら、きっとそのキャッチャーとの対話を楽しめただろうに。

 小楠

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