その店は10年以上前からその場所にあった。
前から気になっていたが、小さな店構えながらも一見の客はお断りといったオーラを感じていたので、これまで足を運ぶことはなかった。
ある日の午前11時過ぎ。ランチ営業中と書かれたのぼりを見つけた僕は、数分後にはまだ誰も客のいないカウンターに一人で座っていた。
愛想のよい奥さんに勧められた定食が目の前に置かれ、小鉢に入った料理を一口食べて驚いた。 美味い。美味すぎる・・・
それは他の品も全く同じだった。
食材の持つ美味さというよりは、作り手の腕前による美味さ。シンプルな料理なのに明らかに手が込んでいる複雑な味わい。決してグルメではない僕が分かるこの違い。
世話しなく仕事の合間に寄った店で、僕は感動すら覚えた。
以降、昼の時間帯に十分な余裕があるときは、一人至高の時間を楽しんでいる。
主人の料理から感じることは、職人としてのプライドだ。
そのプライドは、頑固なこだわりではない。一切の妥協を許さない誠実さだ。
まだ話もしたことのない料理人から、仕事に対する姿勢を振り返るよい機会を頂いた。
増田真也
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