2010年11月18日木曜日

人を感動させる方法

 電話が鳴る。
 「シンバチャン、人を感動させるにはどうしたらいい?」
 そう聞こえた。10年ぶりくらいか。親ほどにも年の離れた昔の上司からだった。
 そうすると、もう70代半ばくらいになられただろうか。
 飲みに行って気分が乗ると、旧制高校の寮歌を一緒に歌うことが楽しかった。話題も豊富で、いつまでも盃を重ねた。
 そういう人だから、突然のこの電話でこの振り。これはなにかのとんちかな。休日でだらっとした頭のキーを回して急発進。急加速で脳細胞をフル回転させる。なかなかウィットに富んだ答えを思い浮かべることができない。それにしても、難しいお題を下さるじゃないか。
 「人を感動させる方法ですか?う~ん、それはやっぱり、方法を考えてはダメで、無欲な行為、まごころの成果っていうことじゃないですか。へへへ。」
 我ながら、さえない答え。照れ笑いしても、さえないものはさえない。
 「まごころねえ。困ったねえ。どうしても、ねえ。」
 ますます混乱してきたぞ。気に入らない答えだったとしても、何かこう、もっと話が進展するような受け答えになるはずなのになあ。
 恐る恐る、探りを入れてみる。
 「ええと、何かありましたかねえ。」
 「いやね、せがれがね、どうにも困っちゃってね。」
 あっ。
 「カンドーって、カンドーのことですか。ああ、カンドーのこと。カンドーはできないですよ。親子の縁は切れません。」
 「勘当する方法はないの?」
 「ないです。」冷や汗がでる。
 「ないのかあ。フー。悪かったね、変な電話で。」
 ・・・こちらは焦るばかりでまともな話ができなかった。もしかしたら、相続人の廃除のような話だったのかな。それは、とんちで答えることはできない。
 みんな、そういう切替をどうやっているんだろう。私は本当に修行が足りない。

                                            調停人候補者 榛葉隆雄

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