2010年3月11日木曜日

だったら言っておいてくれれば良かったのに

昨年の夏、家族で軽井沢へ旅行にいった。せっかくだからと、歴史と風格あるホテルに泊まった。森の中に居ずまいを正す木造の建物は、風景に溶け込んでおり、軽井沢彫りの家具や部屋のキーホルダーさえ、旅情を包み込むようだった。
 普段は飲み慣れないワインなどを軽く傾け、浮世の諸事を忘れて安らかに眠りに入る。
 明け方、5時前。枕もとの壁がギコギコと鳴る。「こら」と私は小三の娘を叱る。 と、娘は眠っている。・・・またしても、ガリガリと鳴る。娘のいたずらではない。まだうす暗いとは言え、草木も眠る丑三つ時は過ぎており、魑魅魍魎、どろどろお化けの出番でもあるまい。しかし、得体の知れない鳴りものはしばらく続いた。なんだかわからないが、まあ、いろんなことがあるだろうと、夢うつつに戻ろうとしたところ、今度は、ドンドンと壁を叩く音。うーん、これは明らかに、その壁をはさんだ隣の部屋からの苦情の意思表示だ。でも、ウチじゃないんです。
 誤解がとけないのは辛いからと、妻がフロントに電話をかけた。フロントはゴメンナサイと言ったらしい。「実は、ハクビシンが住み着いておりまして・・・。」
 だったらはじめから言っておいてくれれば良かったのに。こういうホテルを選んで泊まるんだから、むしろ、森の動物が訪ねてくることをおもしろがってくれる人のほうが多いんじゃないですか。怖いのは人のほうです。隣室のお客さんに恨まれたままだったら、大変でした。チェックアウトの時、妻はそう告げていた。ハクビシンよりモモンガの方が好きだな。モモンガだったらもっと良かったな、と私は思った。
 
 調停人候補者 榛葉隆雄

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