2018年3月2日金曜日

ピロ! ~謎のしきたり~


ぼくは高校1年生の夏ぐらいから、携帯電話を持ち始めました。

それまで堅物さ・野暮ったさを売りにしていたぼくが、チャラさの代名詞であったケータイを持つ、ということは少し気恥ずかしく、持ったよー!と宣言することもなく、あれ、あいついつの間にか持ってんな感を演出したものです。

当時のケータイは、切手ぐらいの大きさの液晶画面を搭載し、モノクロ(というか緑の背景に黒いドット文字)の画面で、他社のケータイにはメールも送れませんでした。当時は大きく4社がシェアを分け合っていたように思いますので、単純計算で友達4人のうち3人はメールではなくて電話でしかコミュニケーションが取れなかったことになります。


そして、いま唐突に思い出してしまったのですが、当時、「ワンコール」という謎のしきたりがあり、電話番号を交換した友達や先輩から謎の着信が頻繁に入っていました。

これは、「おっす」とか「元気?」とか「あー暇」とか「なに今日めちゃ暑い!」とかの気持ちをピロ!という一瞬の着信に託して伝える、という高度なコミュニケーション手段でした。(電話がかかってきた側は、取ってはいけません。取ったらルール違反です。)

ピロ!が聞こえたら、早すぎず遅すぎず、「ども」・「まあまあっす、そっちは?」・「あれ、今日部活休み?」・「やばいよね、溶けそう」といった返事をやはりピリ!の一瞬に託して返します。

少し慣れてくると、あんまり早いと暇そうに思われるな、とかいう見栄がはたらいて、かわいい女の子からのピロ!にはあえて2時間ぐらいしてから返したりしていました。

夜中寝てる間にきたピロ!を翌朝返したりすると、相手も忘れていてまた返ってくる、というドタバタ劇もありました。

中には、おれはそんなわけのわからんしきたりにはのっからない、と宣言する豪傑もいて、誤って彼にピリ!してしまうと、実際にまったく返ってこず、次に会う時に一方的にちょっと気まずくなったりもしました。

そして、ぼく自身はそういうことはなかったと記憶していますが、人によっては、ピロ!を無視したとかしなかったとかがきっかけで関係が悪化することすらあったと思います。

いま思い返すと本当に謎のしきたりだったのですが、いつしか朝起きた時に何件の着信が入っているか楽しみにするようになり、逆に少しケータイを放っておいて1件の着信もないと、世の無常を感じる人間になっていました。


この制度はメールの他社ケータイ相互送受信ができるようになった頃から急速に衰え、実質1~2年の間だけのしきたりでしたが、ぼくの地域の同年代の人間は全員が経験していたはずです。

いまの中高生には、いまの中高生なりのコミュニケーション方法やしきたりがあり、クラスのグループLINEや裏グループLINEを駆使し、中には生放送する人もいて、ぼくらの頃とは様変わりしているけど、独自のコミュニケーション文化が生まれる、という点では、歴史は繰り返す、ということですかね。ハハ。


(青野雅之)

 

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