2009年9月25日金曜日

裁判所型の調停モデル

赤松です。調停は、①裁判所型、②町内会長型、③対話促進型に分けることもできそうです。
そこで、今回は、①裁判所型の調停を実際に台本形式で見てみましょう。
(実際の寸劇風景も、機会があれば、ご覧いただきたいのですが)

では、台本スタートです。

(左から山田、赤松、鈴木の順に着席している。山田は気難しい表情、鈴木は困惑した表情、その間に挟まれている赤松は事務的な表情である。)

赤松「では、只今より平成21年ふらっと1号損害賠償請求事件の調停を開始いたします。まずは申立人の申立書に基づき、事案の概要の確認をいたします。事件が起きたのは、平成21年4月1日水曜日の午後6時30分頃、事件現場は、静岡県沼津市大手町のコンビニ『オーソン』の駐車場…。ここまでは間違いないですね?」
山田「そうなんですよ。そこで、あの人の飼っているジローくんが突然私に向かって…」
赤松「まだ、そこまではお尋ねしていません。質問には、『はい』か『いいえ』で答えればよろしいです。間違いないですね?」
山田「あ、はい…」
赤松「相手方は?」(と鈴木をみる)
鈴木(畏縮した様子で)「あ、私ですか…。は、はい。間違いありません」
赤松「では、続けます。そこで、申立人は、相手方の犬に顔を咬みつかれ、全治2週間の怪我を負った、と。間違いないですね?」
山田「そうなんですよ。おかげで、私のこれからの人生が台無しです!まったくもう、こうみえても私は…」(と話を続けようとするのを赤松が遮って)
赤松「質問には『はい』か『いいえ』で答えてください」(と言ってから鈴木をみて)「犬はどんな犬ですか?」
鈴木「はい」
赤松「『はい』では、わかりません。犬種とか、年齢とか。もっと具体的におっしゃってください」
鈴木「すみません。緊張していまして…。うちのジローは、ミニチュアダックスで4才のオスです。普段は、とてもおとなしいんです」
赤松「犬は、大きいんですか?」
鈴木「いいえ」
赤松「だから…。『はい』とか、『いいえ』だけでは、わかりません。どのくらいの大きさですか?」
鈴木「あ、ほんとにすみません!何て答えればよいのかわからなくて…。えーと、このくらいです」(といって、手を広げる)
赤松「小型犬ですか。誰かを咬まないように、しっかり繋いでおかなかったのですか?」
鈴木「リードをつけて、コンビニの近くの電柱に結んでおきました」
赤松「リードを電柱に結んでいる間、相手方は何をしていたのですか?」
鈴木「コンビニでタバコを買っていました…」
赤松「では、咬まれた時、どういう状況だったか、見ていないということですね」
鈴木「はい…」
赤松「申立書によると、申立人は、バイトの帰り道、コンビニ近くを歩いていたら、突然、ミニチュアダックスに咬まれたということですね」
山田「そうなんですよ。ここを見てください。ここを。ほら、まだうっすらと咬み跡が見えるでしょ。(といって顔をオーバーに向ける)おかげで私の役者人生真っ暗になっちまいましたよ」
赤松「質問には『はい』か『いいえ』で答えてください。何回も言わせないでください」
山田「すみません…。はい、です」
赤松「全治2週間ということですが、申立人は診断書と治療費の領収書はお持ちですか?」
山田「今日は持っていません」
赤松「は?証拠がないと損害が認定できませんよ。本気で請求する気があるんですか?」
山田「そんなこと言われたって、最初に言われてませんでしたし…」(といって鞄を捜す)「あ、あった、あった、ありましたよ。鞄の底にまぎれて入っていましたよ」
赤松(書類を受け取って)「では、これで全治2週間とその間の治療費3万円を認定しましょう。相手方は、自分の飼っていた犬の管理が不十分で、そこに通りがかった申立人を咬んでしまったということまでは認めるのですね」
鈴木「はい」
赤松「では、この点は当事者双方に争いのない事実ということですので、証拠不要と…。申立人は治療費のほかに慰謝料として100万円請求してるようですが、その根拠はありますか?」
山田「私の顔に傷が残っているじゃないですか、ほら。こう見えても私は俳優なんですよ。これからの仕事ができなくなるじゃないですか!」
赤松(小声で)「あまり見たことないですけどね」(山田を向いて)「100万円も請求するのでしたら、その根拠を立証してもらわないとなりません。さっきみたいに。そうだ。今までの仕事のギャラとか、出演した作品とか。そういうのでも疎明資料のひとつにはなりますよ」
山田(ぎくっとして)「それは家においてきました」
赤松「では、期日を続行しますので、次回持って来られますか?」
山田(あせって)「いいえ。今日、話をまとめてください」
赤松「相手方も、それでよろしいのですか?」
鈴木「は、はい。でも、まだ言いたいことが…」
赤松「それは、今回請求されていることと直接関係があるのですか?」
鈴木「それは…ないかもしれませんけど…」
赤松「なら、とくに言わなくてもいいです」
(鈴木、少しむっとする)
赤松「では、調停案を出します。『相手方は、申立人に対し、解決金として金3万円を支払う。それ以外に、お互い債権債務はないものとする』これでよろしいですね」(と言って、双方をみる)
山田「やだ、やだ」鈴木「やだもん」

2 件のコメント:

  1. 入江秀晃です。
    静岡県司法書士会にはたいへんお世話になっております。

    上記のシナリオが、「裁判所型の調停モデル」というのは、ちょっとステレオタイプに過ぎるというか、裁判所の実務に対して失礼な印象を持ちましたが、いかがでしょうか?

    事実と法を使っていくという調停モデルの良さを軽視するようなことはしないほうがよいとわたしはおもっています。わたし自身が講師として研修会のなかで、「評価型調停」を見せる際には、デフォルメするにしても、愛情と敬意を忘れないように心がけているつもりです。(じゅうぶんできていないのかも知れないですが)

    ブログは気軽に書いていくのがよいと思うのですが、気になったので、コメントさせていただきました。よろしくご検討下さい。

    ふらっとの発展を心より期待しています。(これ、本当です。)

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  2. 入江様、コメントありがとうございます。
    ブログを投稿した赤松です。

    ご指摘の点、ごもっともだと思います。
    この台本は、実際にロープレで行ったものですが、その際は、「便宜、裁判所型と区分するものの、実際の裁判所では、このような調停は行われておりません。それぞれの違いをイメージしていただくために、ものすごくデフォルメしております」というお断りを入れたうえ、調停人役を演ずる私は敬意をもって演じさせていただきました。
    そのあたりを述べずに、安易に、台本のみをアップしてしまった点、お詫び申し上げます。

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