朝起きて、テレビをつける。
見慣れたニュースは放送されていない。
「あぁ、今日は大みそかだった。」
顔を洗い、郵便受けから新聞を取り出す。新聞が妙に薄い。一面トップの見出しも直虎が実は男だったという学説に関するもの。やはり今日は大晦日に違いない。
しかし、食卓に並ぶ朝ごはんはいつものとおり。ごはんとみそ汁、漬物、つくだ煮の面々。老母との会話も口数少なく、それもいつものとおり。
身支度を整え、アパートを後にする。いつもの道を通り、事務所へ向かう。途中、刈田や農家の屋根に数えきれない鷺が立ち並ぶ。彼女らは身じろぐことなくこちらを覗っている。
事務所に着き、PCではなくテレビをつける。先送りにしていた真っ新な賀状に墨をつけていく。ベトナム語科のふなちゅうという名の同期に宛てて賀状を書く。彼とは、野球の練習の後、フランス語科のせきみほがいる店によく飯を食いに行った。店の名はフェアリー。せきみほのフラメンコにいくらつぎ込んだかわからない。一々そんなことを思い出しているせいか、賀状書きが進まない。普段忘れていることをつい思い出す。やはり今日は特別な日だ。
賀状書きに身が入らず、こたつに入って菓子パンをかじりながら、ぼんやりテレビを見る。前田吟が直虎の宣伝をしている。土曜スタジオパークだ。
「今日は土曜日か。」
そういえば、最近は平凡な日常を描いた小説や映画が愛おしい、前田吟を見てふと思う。
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「そういえば、古紙の駅に連れていく約束だった。」
思い立って老母に電話をかける。
「エビ食べたい。」
屈託ない老母の返事。エビとはずいぶん贅沢な話だ。しかし、生きている間でなければ親孝行もできない。いや、今日は大晦日だ。とにかくそれぐらいは許そう。
たいていの仕事は明日に回し、アパートへ戻ることにする。日はまだ高い。今日は土曜日の大晦日。日常と非日常が入り乱れた日。
(小楠 展央)
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