2022年11月14日月曜日

ふらっとについて

 法制審議会 家族法制部会では、子の最適な利益という視点から、法律家だけではなく、面会交流などの支援をしている関係者(以下「支援者」という。)なども加わって、現状の問題点を踏まえながら協議を進めております。さまざまな論点が協議されておりますが、なかでも印象に残っているのは、支援者の司法に対する不信感の表明でした。


離婚後の親子を実際に支援している支援者の立場からすると、面会交流調停では父または母のみが意見を表明することができるだけで周辺の祖父や祖母などの意見は取り入れられない、年齢が低いという理由だけで当事者である子の意見を聞き取ってくれない、結局のところ月1回の2~3時間という定型的な面会ということでまとめられてしまうなど、当事者の想いとはかけ離れた調停(または審判)がされてしまったという印象を抱いているようです。そのようにして結論が出された調停または審判ですから、面会交流の実施率も低いというのが現状のようです。支援者の立場からすると、もっと裁判所が当事者の意見をくみ取る制度設計が必要なのではないかという旨を発言しておられました。


ふらっとは、法務省から認証を得たADR(裁判外紛争解決手続)機関として位置づけられております。もちろん、ふらっと以外にもADR機関は存在し、なかには年間100件を超す事件を扱っている機関もあるようです。そのような機関の調停方法は、当事者から挙がってきた情報をもとに、当該機関が適正と考える解決案を示すという裁断的な調停を採用しているようです。示された解決案に当事者が署名・押印すれば一件落着という処理をしているのでしょう。しかし、ここで提示された解決案が実現されているのかというと明らかではありません。はっきりしているのは、解決案が実現されるかどうかに関わらず、機関として実績を一つ積み重ねた、少しシニカルな表現をすれば解決案という一片の紙ぺらを手に入れたということではないでしょうか。


ふらっとでは、当事者に対話を重ねていただき、対話を通して自ら解決を導き出す調停方法を採用しておりますので、ふらっとから当事者に対して解決案を示すということは行っておりません。それは、ふらっとが目指している調停が「解決案の実現」にあるからだろうと、私は考えております。対話を通して、自身の想いを伝え、相手の想いをくみ取って導き出された解決案であれば、自ずと解決案が実現されるであろうと考えているからです。このように解決案が実現されれば当事者の満足度は高まるでしょうから、先ほどの支援者の司法に対する不信感とは異なり、ふらっとは信頼を一つ積み重ねることができるだろうと思います。


これまで以上に司法書士が活動の幅を広げるためには、実績を積み重ねていくことは欠かせません。しかし、実績だけに目を奪われて目の前の当事者に思いを寄せなければ、冒頭の支援者のように、かえって不信感を抱かせることにもなりかねません。私たちの業務は委任契約によって成り立っております。その委任契約の根本にあるのは、当事者からの「信頼」です。その「信頼」の一つ一つを積み重ねてきたからこそ、司法書士は150周年を迎えることができたのではないでしょうか。


ふらっとでは、現在2件の調停を実施しております。委員の皆さんは、「解決案の実現」を目指して、当事者の声に耳を傾け、粘り強く対応しております。そのことが、ふらっと、ひいては司法書士への「信頼」になればと願って活動しております。


ふらっとの調停は、一見してもどかしい調停方法に感じる方もいらっしゃると思いますが、以上の次第ですので、どうぞご理解を賜りたく存じます。また、皆さんから、ふらっとをこれまで以上に応援していただけたら、担当部長としてこれ以上の喜びはありません。事件の紹介も受け付けております。どうぞ、これからもふらっとをよろしくお願いします。


小出

2022年9月8日木曜日

メディエーションの技法

私がふらっとの活動に関わるようになってからそれなりに経ちましたが、最初のきっかけはふらっと主催のメディエーションに関する研修会でした。

最初は何のことかよく分からず研修に参加しましたが、研修で学んだメディエーションの技法が、ここにきて普段の業務や業務以外の部分に生かされているのをよく感じます。

例えば、相槌の打ち方だったり、話の要約の仕方だったり、場合によっては相手の身振り手振りを真似したり、オウム返しをしてみたり。

そうした、当事者がまずは「この人はちゃんと自分の話を聞いてくれる人だ」と安心して話をしてもらえるようにするための調停人のスキルとして学んだことが、普段の相談業務等で自然と使えるようになったことで、以前より肩の力を抜いて相談を受けることが出来ている感じがします。

メディエーションの勉強は特にまだ経験の浅い新入会員の方にとっては非常に有意義なものだと思います。

今後もふらっとは手続実施者養成研修等を企画しておりますので、興味のある方は是非ご参加ください。


小林

2022年8月5日金曜日

「やさしさ」を知る

 立教大学渡辺憲司名誉教授の「やさしさを胸いっぱいに吸い込んで・・・」と題する文章に触れた。

 文中に、白血病で闘病中の広島カープのかつてのエース北別府投手が、コロナウイルス陽性反応の出た阪神タイガース期待の若手藤浪投手に贈った言葉が引用されていた。「運が悪いと思うなよ。申し訳ないと思うなよ。しっかり治して阪神ファンを、野球ファンをマウンドのうえから喜ばせて下さい。もちろん私もその姿を待っているし、復活する姿を見たいと思っていますよ。」というものである。白血病という苦しみの中にいることで、北別府さんの本当のやさしさが言葉になったのだと綴っている。

 「優しい」は、人の憂いと書く。憂いを共有できるのが人のやさしさなのだと説く。また、「やさし」の語源は「痩せる」だそうである。己の身を細らせる時に優しさが生れると云う。

 調停センター「ふらっと」が、やさしさの牽引者になれたらいいのにと感じながら読み進めた。

早川

2022年6月5日日曜日

トラクターの世界史

世界を変えるほどの発明は何かと聞かれたら、皆さんは何を思い浮かべますか?


印刷機?

羅針盤?

自動車?

飛行機?

コンピューター?


おそらくこの質問に対して「トラクター」と答える人はいないでしょう。

でも、『トラクターの世界史』という本を読み終えた人の何割かは、人類史におけるトラクターの重要性に気が付くはず。


農業においてもっとも基本的な作業は、畑を耕すこと。

でもそれは、もっとも過酷な作業でもあるのです。


トラクターという「耕す」ための機械が登場することで

農作業の負担は大幅に軽減し、農業従事者は田舎を離れ

工業に従事するようになりました。


また、農作業に馬の力を借りずに済むようになると糞を肥料にしなくなり

化学肥料が用いられるようになります。


こうした変化は食糧生産の効率を大幅に向上させるのですが

人口が増えすぎるという負の側面ももたらすことになったのです。


例を挙げるときりがないのですが、

畑が平らなのも、原油の価格が食糧の価格に影響するのも

みんなトラクターの登場によるものなのです。


この本のおかげで、私は以前よりほんの少しだけ世界が違って見えるようになるほどの衝撃をうけました。




ところで


みなさんの身近にも、世界観が変わるようなものがあるのです。

ADRという紛争解決手段なのですが・・・

利用してみませんか?


竹下

2022年5月9日月曜日

ドライブ・マイ・カー

単行本ではわずか49頁しかないこの物語がどんな脚本に生まれ変わるのか。楽しみに観た直後、正直言って全てを理解することはできず、引っかかる何かが若干残ったものの(それが村上春樹のエッセンスを損なっていない証左かもしれない)、「自分の心と上手に、正直に折り合いをつけていく」という台詞だけは胸に残り続けた。

“ふらっと”でも「折り合いをつける」という言葉を使うことがあるからかもしれない。

そこで、改めてこの言葉を検索してみると「交渉において、互いにある程度譲り合って双方が納得できる妥協点を定めること。互いに意見や立場が対立しないポイントを見出すこと。」とある(Weblio辞書より)。

私が“ふらっと”で「折り合いをつける」を使うときは、互譲という対相手方のスタンスではなく、自身を見つめ直すことで、自分の気持ちを整理し、自分が納得できるポイントを見つけるという対自分のスタンスで発していたので、ドライブ・マイ・カーの台詞が刺さったのかもしれない。

“ふらっと”で私が調停実施者(調停人)を担当するときは、当事者が、自分自身に折り合いをつけることができるよう努めたい。

 

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(あらすじ:映画『ドライブ・マイ・カー』公式サイトより)

舞台俳優であり演出家の家福(かふく)は、愛する妻の音(おと)と満ち足りた日々を送っていた。しかし、音は秘密を残して突然この世からいなくなってしまう――。2年後、広島での演劇祭に愛車で向かった家福は、ある過去をもつ寡黙な専属ドライバーのみさきと出会う。さらに、かつて音から紹介された俳優・高槻の姿をオーディションで見つけるが…。
喪失感と“打ち明けられることのなかった秘密”に苛まれてきた家福。みさきと過ごし、お互いの過去を明かすなかで、家福はそれまで目を背けてきたあることに気づかされていく。

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これほど3時間が短いと思った映画は久しぶりです。何度も観たくなる映画。アマゾンプライムで観なおしました。その日は前後に何も予定を入れず、じっくり観るのがお薦めです。


増田

2022年4月26日火曜日

調停人のスキルは応用できる?

調停人のスキルで最も重要で基本となるのが「聴く」スキルです。

「聴く」トレーニングのためだけに何百時間もかけると言っても過言ではありません。

「聴く」ことによって人の潜在意識の中に眠っている「答え」を引き出すことになります。

一方、コロナ禍の中で、ZOOM等によるコミュニケーションが当たり前のようになってきました。

オンラインによるコミュニケーションでも「聴く」ことはとても重要となります。

もちろん、オンラインであろうがリアルであろうが、コミュニケーションにおける重要な要素は変わりありませんが、オンラインでのコミュニケーションでは、リアルで行っていることをより意識的に行う必要があると感じています。

1年前くらいから、私は、様々な背景を持つ方々とフェイスブックライブを行っています。ZOOM会議に「発信」という要素が加わった感じです。そこでの私の主な役割は、ファシリテーターとしての役割です。誰が決めたわけでもなく自然とその役割を担うことになっていました。これには、調停人としての経験が自然と活きていると感じています。特に、経営者と対話をするときには、その方の「強み」にフォーカスします。「聴く」ことでその方の「強み」の源泉にたどり着くとその方に「自覚」が生まれます。「自覚」によるその方の変容が楽しくてやりがいを感じます。そして、その「変容」の瞬間が調停人のスキルの可能性を感じる瞬間でもあります。

名波


2022年3月7日月曜日

静岡県人の県民性?

法律相談を受けていると、ときどきびっくりするぐらい昔のことを相談されることがあります。

例えば、10年とか15年も前に亡くなった父または母の相続に関して、相続財産を管理をしている兄弟から、未だに遺産分割の話をしてこないのだがどうなっているのだろうか?とか、10年以上前に知人(または兄弟に)に数十万円とか数百万円のお金を貸したのに、返してもらっていない等。

法律家からすれば、どうしてそんなに長い間紛争を放置しておいたのだろうと疑問が湧く一方で、静岡県外出身の私には、これってのんびりしている静岡県民の県民性なのかしら?と思うこともあります。

まあ、紛争の当事者からすれば、相手方との関係を悪くしたくないので、なかなか言えなかったというが実情なのでしょう。

紛争の解決方法といえば、裁判や和解交渉がイメージしやすいですが、「放置」というのも紛争解決の方法として選択肢の一つとなることがあります。

ただ、紛争を放置しておいても、それが良い方向で解決することはあまりないと思います。

相手方との関係性を大事にしながら、紛争解決を望むのであれば、”ふらっと”を利用して、話し合いをしてみることをお勧めします。


井上